From:桜井啓太
恵比寿のオフィスより
私たちセールスライターは感情のプロです。
人は、論理でモノを買いません。感情で買い、論理で正当化します。だから私たちは、セールスコピーを通じて読み手の感情に触ろうと努力します。
だとしたら、「読み手がどんなことに興味があるのか」ということを知っておくことがとても重要ですよね。頭のなかにある言葉や内容をできるだけ書いてあげることで、共感を得ることができるからです。
リサーチはそのためのものです。
だから世の中で流行っているものは、セールスライターなら全てチェックしておかなければなりません。
そう考え、Amazonを開き、一番売れている「普通の本」を何も考えず購入しました。実は「けものフレンズ」が1位だったんですけど、さすがにそれは回避しました。
その本とは、星野源の「いのちの車窓から」。
読んでみて、「これ、セールスライターなら絶対に読んだほうがいい」と思いました。
分析した結果がどうだったか、どうやって活用していけばいいのかをまとめました。ぜひお読みください。
セールスライティングの「コアスキル」とは?
セールスコピーで最も大切なのは「ヘッドライン」と「リード」。ここでは直接モノを売るわけではありません。しかし「続きを読みたくなってもらう」という、セールスコピーが最も乗り越えなくてはならない最大の障壁をクリアするための場所です。
繰り返しますが、リードの良し悪しは「共感」です。「あ、この文章を読めば自分に得だろうな」と思ってもらうことができれば、最大の障壁はクリアされます。
日々色々なところでセールスコピーを使っていて感じることがあります。それは「商品のベネフィットを伝える」なんてのはどうでもいいということ。読み手は、そんなことを気にしていません。
例えばあなたが、信頼のできる友人からこう言われたとしましょう。
「あなたの○○って悩みに合うと思ったんだけど、これ使ってみてよ」
間違いなく買うでしょう。その人が信頼できるということが1つ、そして「自分に合う」と思ったことがもう1つです。
具体的にその商品のどこが良いのか?ということはこの場合気になりません。「じゃあ」と思い、とりあえず1つ購入して試してみるでしょう。
セールスレターにできるのはここまでです。
使ってみて実際に良いと思ってくれるかどうかは分かりません。だから、前もって「どんな商品なのか=ベネフィット」をちゃんと教育しておいたほうがいいと思ってしまうかもしれません。ですがどれだけ事前にベネフィットを伝えていても、結局はその商品を使ったときの体験に勝るものはありません。だから、セールスライターにできるのはここまでなのです。
リストブランディングという最大のリード練習法
私はいま、楠瀬健之パートナー養成会で「リストブランディングチーム」というところのチームリーダーをやっています。
リストブランディングというのは一番簡単に言うと「メルマガ」を書くスキルのことです。メルマガと言っても馬鹿にしてはいけません。毎回毎回「ヘッドライン」と「リード」があります。
その上で、そのメルマガで一番伝えたいことを伝えるのが最大の目的。それは例えばコンテンツだったり、ランディングページへのクリックだったりしています。
普通のレターは縦にドーンとあり、ヘッドラインとリードは1つです。ですが毎日メルマガをやるとすれば、毎日それぞれのメルマガにおいてヘッドラインとリードを考えていかなければなりません。セールスライターとして、ある意味「コア」となるライティングスキルを鍛えられる絶好の機会です。
星野源「いのちの車窓から」はもともとダ・ヴィンチという雑誌で連載されていたものです。リストブランディングのための「メルマガ」として捉えたとしても素晴らしい構成、素晴らしい文章だと思いました。
まずは読んでみてください
本当はぜひ購入して手元で読んでみてほしいです。必要なところだけ抜粋しながら、解説をしたいと思います。とある1節を引用します。
「いのちの車窓から」分析
多摩川サンセット
出演したNHKドラマ『昨夜のカレー、明日のパン』の撮影がオールアップを迎えた。共演者の方々。スタッフさんたちへの挨拶を終え帰ろうとしたが、ロケ場所であった府中の白糸台という場所には、あまりタクシーが走っていない。
具体的な書き出しからはじまります。一見余計なように思える描写(挨拶のくだりなど)も、読者が頭のなかにイメージをつくりだす助けになっています。結論を端的に伝えるための論理的な文章ではやらないような書き方です。
(中略)まずい、そこまで行ってしまうと中央高速自動車道からものすごく離れてしまう。おまけに武蔵境近辺には高速は走っていない。そこからわざわざ高速道路の入口まで戻るのなら、電車でそのまま新宿経由で帰っても時間はさほど変わらないだろう。やはりこの近辺で大きめの道路を探し、タクシーを捕まえるしかないとも思ったが、一度入った改札を出るわけにもいかない。
1人称視点で心理描写をしています。その時星野さんがどう感じていたか。読み手と星野さんが一体になってものごとを考えている感覚が得られます。いっそう、星野さんの気持ちの共感ができます。
流れていく車窓を眺める。まだ夕方前の15時半。空は快晴だ。近くに住んでいる人には申し訳ないが、なんにもない。ゆけどもゆけども住宅。商店が栄えていく気配はなかった。
情景描写も丁寧です。時刻、見える景色などが詳しいですね。
近づいていくと、左には競艇場入口の改札、右にはタクシー乗り場があった。4台も停まっている。
「……」
左に曲がった。さっきまであれだけ欲していたタクシーだったが、急に競艇場に興味が湧いてきた。
「いつもと違う行動」がライティングのネタになるという良い例だと思います。星野さんの日頃の生活動線からすれば、競艇なんか絶対に行かないようです。ですが、この日はいろいろなめぐり合わせがありたまたま競艇場を訪れることになりました。こうした経験があったからこそ、このエッセイが書けたわけですよね。
「毎日同じことの繰り返し」と嘆くくらいなら、いつもと違う場所に行ってみようと思いました。
結局舟券は買わなかった。金を賭けるギャンブルは苦手だ。普段やっている仕事で十分なスリルがある。安定しない代わりに当たれば大きい。時々、好きなことをやりたくて仕事をしているのか、賭けに勝つ為に仕事をしているのかわからなくなる。本当は両方とも大事なことなのだが、前者を常に忘れないようにしておかないといけない。闇雲に勝つことに執着し、気がつけば仕事がなくなり消えていった先輩を何人も見てきた。人生を賭けた仕事というのは、中毒的要素もとても強い。
この経験を通して星野さんが感じたことが書かれています。大切なのは、ここを読むことによって星野さんのいろいろなこだわりが分かることです。星野さんのパーソナリティを詳しく知ることができたことで、読み手として私は星野さんがさらに好きになりました。応援したくもなりますね。
競艇場を後にし、白いタクシーにのった。「高速に乗って渋谷まで」と伝えると、「あいよ!」と初老の運転手、清水さんは元気よく言った。
(中略)
清水さんは会社を定年退職した後、タクシー乗りになったらしい。バイクと車が大好きで、愛車はハーレーダビッドソン・スポーツスターとポルシェだそうだ。
「お兄ちゃん、バイクはいいよ。風を切って季節を感じることができる」
娘2人を嫁に出し、今ではガソリン代とメンテナンス代を稼ぐ為にタクシーに乗り、生活は年金。趣味は全国ツーリングと、愛妻をポルシェに乗っけての旅行。手には最新のiPhone6。流れている音楽はナット・キング・コールだった。
偶然乗ったタクシーの運転手さんを、ココまで詳しく書けるのはすごいです。前提として、清水さんとそこまでの会話をしたということです。タクシーの運転手さんとそこまで会話する人、なかなかいないですよね。
セールスライティングはリサーチが全て。その中でも究極のリサーチ方法は、「人と会う」です。星野さんが別にライターではないですが、作曲や演技をしています。そういった仕事においても、作品としての深みをつくりだす必要があります。そのためにこうした何気ない日常が役に立っているのだと、私は思いました。
乗っている間、清水さんと延々と喋り続けていた。渋谷に着き会話が終わる頃、清水さんが言った言葉に、タクシーを降りた今もずっとうなずき続けている。
「人間、好きなことしてなきゃダメだよ兄ちゃん!」
ここで終わりです。なんだかすごく良いことを聞いた気がします。「この文章を読んでためになった」という感じがします。このエッセイを通して、きちんと読者に価値を提供できているんですね。ただ単に日常の報告、日記だけ終わっていないのです。
私たちセールスライターは、モノを売るだけの仕事ではありません。ライティングを通じて、価値をお客さんに届ける仕事です。
ランディングページ1つとっても、モノを売って終わりではありません。その文章を読んだ人がたとえ商品を買わなくても「このページに出会ってよかった」と思えるようなものを書きたいですよね。
まとめ
世の中で流行っているものは、必ず見ておかなければなりません。この「いのちの車窓から」は今一番売れているというだけで私たちセールスライターも読む価値があります。
しかしそれだけでなく、「星野さんがどうやってエッセイを書いているのか」を考えながら読むこともリサーチとして非常に役に立ちました。
ぜひあなたも読んでみてください。
PS
「こういうストーリーいいな」とか、「こうしたら読み手に共感できるな」など、テクニックを学んだらすぐに実践してみることが大切です。クライアント獲得のためにも、あなたがオウンドメディアを持つことがセールスライターとして重要です。